作家チャン・ガンミョンが激賞し、秀林文学賞を受賞した新世代韓国文学。 K-POPのルーツである60年代音楽シーンの熱気と混沌を鮮やかに描く。
韓国文学セレクション
ギター・ブギー・シャッフル
- 四六判上製
- 256頁
- 2000円+税
- ISBN 978-4-7877-2022-1
- 2020.04.10発行
- [ 在庫あり ]
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書評・紹介
- 「聯合ニュース」日本語版「60年代の韓国音楽シーン描いた小説 日本語版発売」2020年3月19日配信
- 「聯合ニュース」韓国語版「秀林文学賞の長編小説『ギター・ブギー・シャッフル』日本語版が刊行」2020年3月17日配信
- 「聯合ニュース」韓国語版、岡裕美氏インタビュー「1960年代の韓国ポピュラー音楽、日本の読者も楽しめる」2020年3月22日配信
- 「聯合ニュース」日本語版「K-POPのルーツ描いた小説と「運命の出会い」 翻訳家の岡裕美さん」2020年3月23日配信
- 森朋之氏評(「リアルサウンド ブック」2020.4.19)
- 大石始氏評(「ミュージック・マガジン」2020年6月号)
- 江南亜美子氏紹介(twitter 2020.4.17)
- 「K-POPちょっといい話」ブログ記事「おすすめ韓国文学」(2020-05-17)
- 「統一日報」2020年5月20日号
- 東谷護氏評(共同通信配信、全国各紙掲載 2020年5月〜)
- 東間小織氏評(「図書新聞」2020年7月18日号)
- 放克犬氏評(トーキングヘッズ叢書No.83「音楽、なんてストレンジな!」2020年8月)
- 吉上恭太氏評(「[本]のメルマガ」vol.762,2020年8月15日)
- 共同通信配信、著者インタビュー(「沖縄タイムス」2020年11月5日、ほか)
- 上村里花記者「語られぬ声を文字に」(「毎日新聞」西部版、2020年10月31日)
- 金成玟氏評(『韓国・朝鮮の美を読む』野間秀樹・白永瑞編、クオン、2021年)
- いとうせいこう氏評(「朝日新聞」2020年6月6日)
- 斎藤真理子氏評(「MONKEY」vol. 27「特集 ラジオの時」2022年6月)
紹介文
◎いとうせいこうさん書評(「朝日新聞」2020.6.6)
〈並みいる韓国文学の翻訳書の中に、またひとつ毛色の違った小説が現れた。〉
朝鮮戦争の傷跡が色濃く残る1960年代初頭のソウル。
戦争で孤児となった主人公キム・ヒョンの心の友は、米軍のラジオ局から流れてくる最新のポップスだった。
どん底の生活を続けていたヒョンは偶然の積み重ねで、憧れの龍山(ヨンサン)米軍基地内のクラブステージにギタリストとして立つことに——。
新世代の実力派作家が、K-POPのルーツである60年代音楽シーンの熱気と混沌を鮮やかに描く。
第五回秀林文学賞受賞作。
〈俺だけではなくこの都市のすべてが、朝鮮戦争が勃発した一九五〇年を基点に過去と決別しなければならなかった。
一九五〇年、夏。戦争はとぼけた顔でやってきてこの巨大な都市を丸ごと呑み込み、骨だけにして吐き出した。のんきにバイオリンを弾いていた幼い俺も、骨だけが残った。〉
〈八軍芸能界に飛び込んでからというもの、世事の道理は俺とは関係のない話になった。向こう見ずに自立を望んだ俺の飢えた世界は、芸能界でついに目標を見いだした。
親もきょうだいもいない俺の人生で、音楽は唯一の友だった。音楽は裕福だった幼い頃の思い出を再生する映写機であり、肉体の苦痛と心の傷から逃避させてくれる麻薬だった。音楽の世話になってばかりの人生から一歩進んで、俺と似た境遇の人々の心を慰めることができたらこれ以上のやりがいはないだろう。〉
〈ラジオの電波は人種や国籍を差別しなかったから、駐屯地の住民もアメリカの最新文化の洗礼を惜しみなく享受することができた。ラジオ放送の華はなんといっても流行の大衆音楽、いわゆるポップスだった。
軽快なツイストのリズムに合わせ、いびきも、鼻を突き刺すような足のにおいも、ごきげんなドラムとサックスに追いやられてはるか遠くへ消え去った。一晩中ラジオを聴けることが、どん底のようなタコ部屋の唯一にして最大の長所だった。俺は布団の中でチャビー・チェッカーのように尻を振りながらリズムに乗った。
戦争とともにジャズの時代は終わり、ロックンロールとツイストの時代がやってきた。〉
——本文より
装画:ホン・ウンジュ&キム・ヒョンジェ
装幀:丸山有美
目次
1. 想い出はかくの如く (Memories are made of this)
2. ある少年がいた、不思議な魔法にかかった少年が (There was a boy, a very strange enchanted boy)
3. 何はさておきカネのため、その次にショーのため (One for the money, two for the show)
4. 今日は笑おう、泣くのは明日 (You laugh today and cry tomorrow)
5. とにかく今はソウルを信じよう (Well I believe to my soul now)
6. 愛しすぎると男はイカれちまう (Too much love drives a man insane)
7. 夜のとばりが下りれば (Now when the day is ending and night begin to fall)
8. 忘れないわ、永遠に (Unforgettable, in every way)
出版社からのコメント
「おもしろすぎて目が離せなかった」「1962年にタイムスリップし、ステージの下で一緒に歓声を上げ、舞台裏で一緒に泣いてきた気分だ」——。作家チャン・ガンミョンが激賞し、第5回「秀林文学賞」を受賞した本作は、韓国にロックとジャズが根づき始めた1960年代ソウルの龍山米軍基地内のクラブステージ「米八軍舞台」で活躍する若きミュージシャンたちの姿を描いた音楽青春小説である。
「タンタラ(河原者)」と蔑まれながらも、音楽への情熱を冷ますことなく、よりステータスの高いステージに立つことを夢見続けた若者たち。米軍基地を通じて欧米の音楽を受け入れることで発展した韓国の音楽史は、現在のK-POPのルーツでもあり、戦後日本のポピュラー音楽の発展と重なる点も多い。
朝鮮戦争が残した傷跡、軍事独裁政権下での人々の暮らし、芸能界に蔓延していた麻薬と暴力など、当時の社会や風俗を知る貴重な資料としても読み解くことができるだろう。
*読者の皆様へ
アーサー・スミスが1945年に発表したインストゥルメンタル曲〈ギター・ブギー〉。
これをロック調のアレンジでリメイクした〈ギター・ブギー・シャッフル〉が全米チャート5位の大ヒットを記録したのは1959年。
同年にこの曲をヒットさせたのは、史実としてはザ・ヴァーチューズ(The Virtues)になりますが、架空の物語である本作において、原著者は意図的に、ザ・ベンチャーズ(The Ventures)の曲であるという設定にしています。
ベンチャーズというグループと〈ギター・ブギー・シャッフル〉という曲はともに、60年代当時の米八軍クラブで大人気を博した象徴的な存在だったことから、このような設定にしたということです。
1959年にデビューしたベンチャーズが、この曲をアルバムに収録して再び甦らせたのは実際には1972年になりますが、以上の点をご了解のうえ、フィクションであるという前提で本作をお楽しみくださいませ。