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メディア2020.11.19

『海女たち』『ギター・ブギー・シャッフル』が「毎日新聞」で紹介されました

2020年10月31日付け「毎日新聞」西部版の文化面に、上村里花記者による報告記事「日韓交流オンラインイベント「歩く文学、ソウルから東京・福岡まで」語られぬ声を文字に」が掲載されました。
https://mainichi.jp/articles/20201031/ddp/014/040/015000c

この記事は、10月3日と4日に、東京と福岡で開催されたトークイベント「歩く文学、ソウルから東京・福岡まで ~〈文学〉と〈歩行〉を通じた新たなる日韓交流のかたち〜」の報告です。

このイベントには、ソウルから、弊社刊『ギター・ブギー・シャッフル』著者のイ・ジン氏、訳者の岡裕美氏が登壇。日本の会場には、弊社刊『海女たち』(ホ・ヨンソン詩集)訳者の姜信子氏のほか、辻野裕紀氏(九州大学准教授、言語学者)と佐藤結氏(映画ライター)が登壇。
2日間にわたり、『海女たち』『ギター・ブギー・シャッフル』の2冊の話題を中心に、「韓国文学の魅力」「文学から見る韓国社会」のテーマで、広く文学のもつ力、役割について、熱い議論が交わされました。

〈「私にとって韓国文学は、社会からはじき出され、あるいは社会の底に沈められた人たちの声を文学者や詩人がすくい上げ(国家や民族などの)『大きな物語』に対抗する『小さな物語』として差し出してくるものとして存在した」〉……姜信子氏

〈姜は約20年前、自分を縛る国や民族から離れたくて「歌」に導かれて旅に出た。そこで出会ったのは、巨大な権力により住む場所や自らの言葉、名前を奪われ、記憶を封じられ、ついには命まで取られてしまうような「世界の荒野に投げ出されたような人々」だった。それは、中央アジアの高麗人(コリョサラム)であったり、台湾の先住民であったりした。〉

〈「この世の中心から最も離れた場所、最も沈黙を強いられる場所は、どこよりも歌が人々の思いや記憶を器として受け止める場所となる。歌は、ここに語られぬ記憶があると教える。封じられた記憶に触れてしまったら、別の世界の扉が開く」と姜。……姜がたどり着いたのが、韓国・済州島であり、海女たちだった。〉

〈姜は今春、趙倫子とともに、同島出身の詩人、ホ・ヨンソンの詩集『海女たち』の邦訳を新泉社から出版した。……姜は「ここに最も深い水底からもたらされた『はじまりの歌』がある」と評した。〉

〈2日目は、1960年代初頭、軍事政権下の韓国を舞台としたイ・ジンの小説『ギター・ブギー・シャッフル』(新泉社)を題材に語り合った。……「音楽小説であり、歴史小説」(イ・ジン)だ。……韓国でのロック勃興期の音楽シーンが生き生きと描かれ、エンターテインメント性の高い作品に仕上がっている。〉

〈姜は「日本と韓国は合わせ鏡のように同じ近現代史を生きてきたことがこの小説からは見える」と話す。さらに、当時の世相を描いた一節を朗読し、韓国文学全体の底流にある「痛み」に言及した。〉

〈「繰り返し繰り返し名も無き人々が傷つけられる歴史が韓国社会にはあり、それを作家たちがしっかりと見つめて、文学として成立させていく営みが韓国にはきちんとあった。翻って、日本はそういう営みが文学の中に希薄になってきた」〉……姜信子氏

〈「今、生きているこの空間の中で、心の痛みや傷を抱え、声も出せずにいる人たち、そうした無数に漂う沈黙の中から、本当に世の中に出していかなければならない無言の声をきちんと受け取って、できる限り文字として送り出していくことこそが作家の役割」〉……姜信子氏