海女たち

語りえない女たちの声よ、届け。韓国済州島の詩人による祈りのうた。

海女たち

愛を抱かずしてどうして海に入られようか

  • ホ・ヨンソン/著
  • 姜信子/訳
  • 趙倫子/訳
  • 四六判
  • 240頁
  • 2000円+税
  • ISBN 978-4-7877-2020-7
  • 2020.03.31発行
  • [ 在庫あり ]
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書評・紹介

紹介文

◎松尾亜紀子さん評(『エル・ジャポン』2021年4月号)
《韓国の女性たちがいかに自分たちを語ることばを探し、ことばを獲得してきたか》《魂に響く海女たちの歌を声に出して何度でも読みたい》

◎斎藤真理子さん評(「ハフポスト日本版」2020.10.17)
《本書は済州島の海女たちの暮らしと闘いがテーマとなっており、厳しく優しい海の生命力と海女たちの誇り高い人生が溶け込んだ読み応えたっぷりの一冊》

◎金時鐘さん評(『現代詩手帖』2020年8月号)
《差し出してみたい一冊の詩集》《歴史の闇に取りついた詩人/日本の詩には見られない、まれな詩的リアリズムをここに見る》

◎佐藤泉さん評(「図書新聞」2020.7.5)
《済州島の海女たちの声…森崎和江が聞き書きに残した女坑夫たちを想起した》

◎「ふぇみん」2020.7.5
《済州島生まれの著者…が海女たちの人生を綴った…海面に浮かび上がる時に、たまりにたまった息を吐く磯笛のような、水の詩に耳をすます。それは絶望の歌でなく、生に続く希望の歌だ》

◎「毎日新聞」2020.6.14
《詩集に満ちるのは、呼吸のリズム。海に潜り、呼吸を整え、また潜る。海女たちの身体に刻まれた記憶が、詩のリズムの中で読者の体も揺らす》

◎佐川亜紀さん評(「しんぶん赤旗」2020.5.29)
《一九三二年の海女抗日闘争などをしなやかな言葉で書く。…民衆の闘いの歴史が勇気を与えてくれる》

◎田原範子さん書評(「週刊読書人」2020.5.22)
《ホ・ヨンソンは、文学は時代に対する応答だという。人びとの苦痛と記憶に光をあて、生と死のあわいを漂う海女の声をひろいあげた》

◎内田樹さん書評(「西日本新聞」2020.5.2)
《漱石の『夢十夜』のような、存在しない記憶が甦ってくるのである》

◎山内光枝さん書評(「熊本日日新聞」2020.4.26)
《詩人は…激浪のなかで女たちを生かし奮い立たせた命への愛と、痛みをうたった》《声を継ぐということは命を継ぐことに等しいことを、この詩集は静かに訴える》

◎岡和田晃さん評(「図書新聞」2020.4.18)
《石牟礼道子の小説を読むかのように、言語という「国境」を超克するものとして読むことができる》

白波に身を投じる瞬間、海女は詩であった。
海に浮かぶ瞬間から詩であった。
海女は水で詩を書く。
風が吹けば風に吹かれるままに、雪が降れば雪の降るままに、体いっぱいの愛を込めて詩を書きつづる。

水に生きる海女たちの物語の中で、水を知らぬ生を生きている私をのぞきみることができないだろうかと思いました。
みずからを弱い存在であると思い込んでいる人びとに、限界を飛び越えてゆく彼女たちの勇気を、手渡すことができるかもしれないという思いもあるのです。
――「日本の読者に手渡すささやかな息」より

聞こえないわからない痛みの記憶が確かにそこにあることを嚙みしめながら、女たちの語りえない記憶の標(しるし)を打ち込む言葉を紡いで、済州という島の記憶の地図を描きだすようにして歌うホ・ヨンソンの詩の世界の一端に、このとき私ははじめて触れた。
——姜信子「訳者あとがき1」より

海女は水で詩を書く——。韓国済州島の詩人ホ・ヨンソンの詩集。日本植民地下の海女闘争、出稼ぎ・徴用、解放後の済州四・三事件。現代史の激浪を生き抜いた島の海女ひとりひとりの名に呼びかけ、語りえない女たちの声、愛と痛みの記憶を歌う祈りのことば。姜信子・趙倫子訳。

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目次

詩人の言葉

インタビュー 韓国済州島の詩人ホ・ヨンソンへの十の質問

日本の読者に手渡すささやかな息

序 海女たち

第一部 海女伝——生きた、愛した、闘った
第一部訳者解説 姜信子
海女 キム・オンニョン 1
海女 キム・オンニョン 2
海女 コ・チャドン
海女 チョン・ビョンチュン
海女 トクファ
海女 クォン・ヨン
海女 ヤン・グムニョ
海女 ヤン・ウィホン 1
海女 ヤン・ウィホン 2
海女 ホン・ソンナン 1
海女 ホン・ソンナン 2
海女 ムン・ギョンス
海女 カン・アンジャ
海女 キム・スンドク
海女 ヒョン・ドクソン
海女 マルソニ
海女 パク・オンナン
海女 コ・イノ
海女 キム・テメ
海女 コ・テヨン
海女 メオギ
海女 チャン・ブンダ
海女 キム・スンジャ
海女 オ・スナ
釡山国際市場をゆるがせた

第二部 声なき声の祈りの歌
第二部訳者解説 姜信子
1 わたしたちはモムを山のように
2 一杯のモムのおつゆ
3 北村海女史
4 あの子が泣いたら お乳をやってください
5 わたしたちは宇宙の桃色の乳首
6 一瞬の決行のためにわたしは生きていたのです―死せる海女に捧ぐ
7 波のない今日がどこにあろうか
8 タリョ島では海女豆が集まって暮らしています
9 海の中の呼吸は何をつかむのか―五人の海女の歌
10 墨を吐いて逃げるタコのように
11 眠れる波まで打て!——海女の舟歌
12 愛を抱かずしてどうして海に入られようか
13 どれだけ深く降りていけば たどりつけるのか
14 わたしたちが歩く海の道は
15 海に 海にだけ 生きてきた
16 もしや済州島をご存知なのか?
17 心臓をむきだしにしたあの赤いカンナ——死せる海女の歌
18 テワク(浮き)が語ることには
19 すべては日が沈んだのちにはじまる——翰洙里の海辺にて
20 喰らった力で愛を産んだのか
21 泣きたいときは海で泣け——海女の母から娘に
22 ただひと息で飛びなさい
23 娘よ、おまえは水の娘なのだから
24 海女は古いものたちの力を信じる
25 おかあさん、あなたはいまなお青い上軍海女です

散文 海女は水で詩を書く



編注
訳者あとがき1 姜信子
訳者あとがき2 趙倫子

出版社からのコメント

近年、韓国文学とフェミニズムとのかかわりが注目されています。「いのち」を守るために権力に立ち向かい、動乱を生き抜いた韓国済州島の女性たちの生き様を抒情的な詩のことばで語る本書は、「韓国文学とフェミニズム」というテーマに心を寄せる読者にも、興味深く読んでいただける内容です。詩人のインタビュー、日本の読者へのメッセージ、韓国語版の詩集には収録されなかった作品、また訳者のひとりである作家・姜信子さんの解説を収録し、読みごたえのある一冊になっています。

著者紹介

ホ・ヨンソン(許榮善)

韓国済州島生まれ。詩人。済州四・三研究所所長、済州大学講師、五・一八記念財団理事、社団法人済州オルレ理事として活動しており、これまで済民日報編集副局長、済州民芸総理事長、済州平和財団理事などを歴任した。
著書に詩集『追憶のような—私の自由は』『根の歌』『海女たち』、エッセイ集『島、記憶の風』『耽羅に魅了された世界人の済州オデッセイ』『あなたには悲しむべき春があるけれど』など。詩の専門誌『心象』新人賞を受賞してデビューし、二〇一八年に詩集『海女たち』でキム・ガンヒョプ文学賞を受賞した。歴史書、聞き書き集、絵本など多くの著作が数ある。
日本語訳された歴史書に『語り継ぐ——済州島四・三事件』(村上尚子訳、二〇一四年、新幹社)があり、大村益夫編訳『風と石と菜の花と——済州島詩人選』(新幹社、二〇〇九年)に詩作品「傷」「揺れについて」「歳月」「石工について」が収録されている。

姜信子(キョウ・ノブコ/KANG Shinja)

1961年、神奈川県生まれ。作家。著書に『生きとし生ける空白の物語』(港の人)、『平成山椒太夫』(せりか書房)、『現代説経集』(ぷねうま舎)、『はじまれ、ふたたび』(新泉社)、『忘却の野に春を想う』(山内明美と共著、白水社)など多数。共著に『完全版 韓国・フェミニズム・日本』(斎藤真理子編、河出書房新社)など、訳書にピョン・ヘヨン『モンスーン』(白水社)、ホ・ヨンソン『海女たち』(新泉社、趙倫子と共訳)など。2017年、『声 千年先に届くほどに』(ぷねうま舎)で鉄犬ヘテロトピア文学賞受賞。

趙倫子(チョ・リュンジャ)

一九七五年、大阪府大東市生まれ。韓国語講師。パンソリの鼓手および脚本家。創作パンソリに「四月の物語」「ノルボの憂鬱」。

関連書籍

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  • はじまれ、ふたたび
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  • 詩人 白石 (ペクソク)
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