第43回「サントリー学芸賞」受賞作
格差・貧困への怒りが右傾化を生むのか?
欧州の排外主義とナショナリズム
調査から見る世論の本質
- 四六判
- 304頁
- 2800円+税
- ISBN 978-4-7877-2102-0
- 2021.03.28発行
- [ 在庫あり ]
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書評・紹介
紹介文
21世紀に入り、ヨーロッパでは右翼政党の台頭や反移民感情の高揚が問題になっている。こうした右傾化や排外的な動きに対して、これまで新聞やテレビなどでは、社会から置き去りにされた、貧困に喘ぐ人たちの怒りの表れであるという説明が多くなされてきた。
しかしそれは本当なのだろうか?
本書では、欧州難民・移民危機やユーロ危機以降のヨーロッパで行われた世論調査のデータを実証的に分析し、そうした言説(貧困に喘ぐ人々の怒りの表れ)に根拠がないことを明らかにした。さらに、こうした右傾化や排外主義の台頭は、実は経済的要因ではなく非経済的要因(文化や慣習、規則など)によって強く規定されていることも明らかにした。
そして、実際に右翼政党を支持している人たちはどんな人々なのか、どんな状況が人々の右傾化を生むのか、また中道政党が右傾化するのはなぜか、といったことをヨーロッパの個別の国を対象に分析していった。
加えて、著者が独自に行った世論調査では、右翼政党を支持する人たちのバックボーンを明らかにしたり、選挙キャンペーンに影響されるのはどんな人たちなのかを分析したりもしている。
人口減少社会を迎えた日本でも、コロナ禍で、いままで隠れていた移民の問題が浮き彫りになってきた。いつのまにか移民の受け入れ国になっていた日本は、今後、どのような社会を作っていけばよいのだろうか。
21世紀のヨーロッパを題材に、民主主義下における少数派の排斥という、古くて新しい人間の根源的な問題を取り上げた一冊である。
目次
目次
序章
第1節 本書は何を問題とするのか
第2節 本書が論じることと論じないこと
第3節 本書の構成
第1章 ヨーロッパの排外的ナショナリズムをデータで見る
第1節 ヨーロッパは排外主義化しているのか
第2節 ヨーロッパの政治的対立軸の変化
第3節 本書が主に使用するデータについて
第4節 本書における計量分析の考え方
第2章 誰が排外的な政党を支持するのか
第1節 排外的な政党支持はどのように説明されてきたか
第2節 分析に使用するデータと方法
第3節 右翼政党支持の計量分析
第4節 右翼政党支持は文化破壊懸念と欧州統合反発が原因
第3章 誰が文化的観点から移民を忌避するのか
第1節 反移民感情はどのように説明されてきたか
第2節 移民影響認知の計量分析
第3節 移民受け入れ拒否の計量分析
第4節 文化的な反移民感情は欧州統合への不信感の表れである
第4章 欧州各国の違いを分析する―3パターンの排外的ナショナリズム
第1節 一国単位の回帰分析結果
第2節 西と東の構造的差異
第3節 右翼政党政治・移民文化破壊懸念・欧州懐疑のトライアングル
第4節 トライアングルの意味の検討
第5節 欧州各国の違い:小括
第5章 右翼支持者が好む反移民という建物 ―フランス国民戦線支持者のサーベイ実験
第1節 反移民感情と社会的望ましさバイアス
第2節 分析対象と方法:フランスにおけるリスト実験調査
第3節 分析結果:国民戦線支持者は必ずしも反移民ではないかもしれない
第4節 学歴と職業による本音度の違い ─従来型調査との比較
第5節 反移民感情と極右政党支持:本音はどこに
第6章 ナショナリストが煽る市民の排外感情 ―ラトビア選挙戦の効果検証
第1節 選挙とナショナリズムの理論
第2節 ラトビアの右翼政党と反移民・難民運動
第3節 分析対象と方法:ラトビアにおける通時的世論調査
第4節 選挙前後の比較分析結果
第5節 政治意識の高い者たちが選挙に際して排外的になる
第7章 主流政党による排外主義の取り込み ―ポーランドの右傾化と反EU言説
第1節 大きく変動したポーランドの世論
第2節 分断された二つのポーランド:世論の東西分断
第3節 欧州懐疑を取り込み成長してきた「法と正義」─中道から右翼へ
第4節 法と正義が展開した反EU・反与党の言説
第5節 多層的な意思決定環境下で移民問題が語られるとき
第8章 非経済的信念と排外主義
第1節 本書全体が明らかにしたこと
第2節 なぜ経済はそこまで重要ではないのか
第3節 本書の結論の限界
第4節 本書の知見は(日本)社会にどのような含意を持つのか
補 遺
参考文献
索 引
出版社からのコメント
2016年のアメリカ大統領選挙で、大方の予想を違えてドナルド・トランプが大統領に当選したとき、「忘れ去られたラストベルトの白人労働者」に注目が集まりました。ところが後になって、比較的裕福な保守派の人たちのなかに隠れトランプ支持者が多くいたことがわかってきました。それでは、21世紀のヨーロッパで起こっている移民排斥や右傾化にも同じことが当てはまるのでしょうか。
著者は、全ヨーロッパを対象にした世論調査データを実証的に分析し、様々な角度から「社会から捨てられた格差・貧困に喘ぐ人たち」の存在を分析しました。
さらには、独自に行った各国の調査をもとに、隠れ右翼政党支持者の存在も明らかにしました。
日本人は、移民を受け入れるという意識もないままに、いつの間にか移民の受け入れ国になっていました。
ヨーロッパで起こっている事象は、10年後の日本の姿なのかもしれません。そうなったときにアタフタしないために、知っておかなければならない事実を浮き彫りにしています。