エリートたちの反撃

行き過ぎたリベラリズムがドイツ民族を没落させる

エリートたちの反撃

ドイツ新右翼の誕生と再生

  • フォルカー・ヴァイス/著
  • 佐藤 公紀/訳
  • 四六判
  • 296頁
  • 2500円+税
  • ISBN 978-4-7877-2013-9
  • 2020.07.26発行
  • [ 在庫あり ]
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書評・紹介

紹介文

2010年8月、ドイツ連邦銀行理事で、SPD(ドイツ社会民主党)に属するエリート官僚のティロ・ザラツィンは、『ドイツは自滅する』という本を上梓した。この本でザラツィンは、「これ以上の移民流入はドイツを破滅させる」と、ドイツではタブーとされていた「反移民・反ユダヤ」論を公然と主張し、ドイツに「ザラツィン論争」を巻き起こした。
この論争に加え、冷戦の崩壊とドイツ再統一後の新たな社会秩序の中で起こったグローバル化と経済危機、それによる社会不安などのために、この本は数カ月で120万部を売り上げるベストセラーとなったのである。
ザラツィンは、ドイツ没落の予言書ともいえるこの本で、大衆の台頭がエリートを失墜させ、移民流入が民族に危機をもたらすと唱えたが、これはドイツに古くからある没落論のテーゼであった。
著者ヴァイスは、ザラツィンの主張は決して新しいものではなく、シュペングラーやユングなどの、「文化ペシミズム」や「没落文学(没落論)」という新右翼の誕生につながるドイツ保守思想の一つにすぎないことを示した。
しかし、ザラツィンによって説き起こされた「エリート」「能力」「遺伝」をめぐる議論は、右翼の中だけではなく、いまや一般のドイツ人にまで届くものとなった。それが新右翼の隆盛につながっていくという事実を、読み取ることができる一冊である。

目次

第1章 二〇一〇年の黙示録―ドイツは自滅するのか?
第2章 ドイツの没落
第3章 自覚ある国民への道
第4章 人間工学的転回
第5章 大衆に対する不安
第6章 人口統計学と危機
第7章 言論闘争のパルチザンたち
第8章 偽りの予言者たち


解説 現代ドイツ政治と「新右翼」 佐藤公紀
資料

出版社からのコメント

ヴァイスは、『ドイツの新右翼』(新泉社刊)で、「保守革命」と言われる思想がドイツ保守思想からナチズムを分離させ、新右翼という新たな潮流を生み出したことを明らかにしました。その『ドイツの新右翼』よりも6年早い2011年に出版された本書は、「ザラツィン論争」を受けての緊急出版であり、ドイツ人に人気の没落論が新右翼の誕生にどのように影響を与えたのかを、過去の没落論者を取り上げることで解明しています。
『ドイツの新右翼』と一緒に読むことで、著者ヴァイスの保守研究の流れを知ることができるでしょう。
また、権力から遠ざけられた「エリートたち(支配者層)」はどのようにして、再び権力を掌握していくのか。大衆をどのように利用していくのか。マスコミを使って地位奪回を目論む、エリートたちの狡猾さにも注目です!

著者紹介

フォルカー・ヴァイス(Volker Weiß)

1972年生まれ。19世紀から現在までのドイツの極右を専門とする歴史家、評論家。ハンブルク大学で歴史学の博士号を取得後、複数の大学での非常勤講師を経て、現在は新聞や雑誌での執筆活動を展開している。単著に『Die autoritäre Revolte: Die Neue Rechte und der Untergang des Abendlandes』(2017年、邦訳『ドイツの新右翼』新泉社)、『Moderne Antimoderne. Arthur Moeller van den Bruck und der Wandel des Konservatismus(近代的反近代――アルトゥール・メラー・ファン・デン・ブルックと保守主義の変容――)』(2012年、未邦訳)などがある。

佐藤 公紀(サトウ・キミノリ)

1978年生まれ。ドイツ近現代史、現代ドイツ政治。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。博士(学術)。現在、明治大学法学部専任講師。論文に「「怒れる市民」の抗議運動の内実とその論理―AfDとペギーダを例に」(『ドイツ研究』第51号、2017年)、「ヴァイマル共和国における監獄改革と受刑者処遇の実際―不服申し立て史料の検討を通して」(『現代史研究』第55号、2009年)など。共訳にヴォルフガング・ソフスキー『安全の原理』(法政大学出版局、2013年)。

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