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メディア2022.07.30

『さすらう地』の書評が「朝日新聞」に掲載されました(藤原辰史氏評)

2022年7月30日付「朝日新聞」読書面にて、韓国文学セレクション『さすらう地』(キム・スム作、岡裕美訳、姜信子解説)の書評が掲載されました。

◎藤原辰史さん評「荒野に捨てられた朝鮮の人びと」
https://book.asahi.com/article/14682698

◎韓国文学セレクション『さすらう地』(キム・スム作、岡裕美訳、姜信子解説)
https://shinsensha.com/books/4875/

〈一九三七年、スターリン体制下の極東の沿海州。突然、ソ連の警察が朝鮮半島にルーツを持つ人びとの家をまわり命じた。三日後に一週間分の食料と最低限の衣服を持って革命広場に集まれ、と。〉

〈行く先は伝えられない。四方を板で囲われた貨車に詰め込まれた人びとは、悪臭の充満する暗闇の中で、長い旅の末「最終目的地」に降ろされ、家も農地もない荒野に連れていかれ、捨てられる。着いた場所は、ユーラシア大陸の深奥部、中央アジアだった。〉

〈この苛烈な史実を知っている人は日本でどれくらいいるだろう。姜信子の秀逸な解説にあるように、……まるでこの地は、二十世紀の暴力が堆積した掃き溜めのようである。〉

〈……時間をかけて根を張った場所から引き剝がされることが、どれほど深く人びとの心を引き裂くのか。無数の「なぜ」を読者は否応なく問うことになるだろう。〉

〈本書は、こんなに重たい歴史を、シベリアの大地を走る狭い貨車の会話と身ぶりだけで浮かび上がらせようとする。……飢え。嘆き。別れ。涙。衰弱の中で研ぎ澄まされていく棄民たちの言葉で抉(えぐ)られていく私は、貨車から放り出された終幕でもう目をつむるしかなかった。〉