なぜ環境保全はうまくいかないのか

なぜ環境保全はうまくいかないのか

現場から考える「順応的ガバナンス」の可能性

  • 宮内 泰介/編
  • 四六判上製
  • 352頁
  • 2400円+税
  • ISBN 978-4-7877-1301-8
  • 2013.03.10発行
  • [ 在庫あり ]
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書評・紹介

紹介文

「ズレ」と「ずらし」の順応的ガバナンスへ

「正しい」しくみにもとづき、よかれと思って進められる環境保全策。ところが、現実にはうまくいかないことが多いのはなぜだろうか?
地域社会の多元的な価値観を大切にし、試行錯誤をくりかえしながら、柔軟に変化させていく順応的な協働の環境ガバナンスの可能性を探る。

目次

序章 なぜ環境保全はうまくいかないのか:順応的ガバナンスの可能性(宮内泰介)
(うまくいかない「正しい」環境保全政策/科学の「問い」と社会の「問い」のズレ/市民参加や合意形成の難しさ/順応的ガバナンスへ)

第1章 なぜ順応的管理はうまくいかないのか:自然再生事業における順応的管理の「失敗」から考える(富田涼都)
(順応的管理が陥る「失敗」とは/公論形成の場は問題を解決できるのか?/リスクを負う合意の課題/順応的ガバナンスへの発想の転換 ほか)

第2章 なぜ獣害対策はうまくいかないのか:獣害問題における順応的ガバナンスに向けて(鈴木克哉)
(地域が主体となった獣害対策への注目/獣害対策の現場で直面する課題/硬直化するガバナンス ほか)

第3章 希少種保護をめぐる人と人、人と自然の関係性の再構築:北海道鶴居村のタンチョウ保護と「食害」(二宮咲子)
(タンチョウの「絶滅」と「再発見」/タンチョウ保護と「食害」/「食害」の社会構造的な要因/「食害」の社会的解決の可能性 ほか)

第4章 地域環境保全をめぐる「複数の利益」:青森県岩木川下流部ヨシ原の荒廃と保全(寺林暁良・竹内健悟)
(ヨシ原の荒廃問題と地域社会/「複数の利益」の実現に向けた取り組み/リスクをめぐる課題 ほか)

第5章 「望ましい景観」の決定と保全の主体をめぐって:重複する「保護地域」としての青森県種差海岸(山本信次・塚 佳織)
(県立自然公園と国の名勝/二次的自然景観の形成過程と保全の現状/共有される「望ましい景観」とは/ステークホルダーの関与と地域環境ガバナンスの構築 ほか)

第6章 自然順応的な村の資源保全と「伝統」の位相:福島県檜枝岐村のサンショウウオ漁と人びとの暮らし(関 礼子)
(自然に順応した暮らしと「伝統」/ジネンの村のサンショウウオ漁/資源保全のしくみと「伝統」/伝統の世代更新と漁の持続性/地域性ある資源保全のしくみは可能か? ほか)

第7章 自然資源管理をめぐるサケと「ウナギ」の有象無象:米国先住民族ユロックの生活文化と資源管理の「飼いならし」(福永真弓)
(ミツバヤツメという「ウナギ」/先住民族ユロックの生活文化とクラマス川/伝統的(土着的)生態学知識を手がかりに/順応的資源管理を「飼いならす」ために ほか)

第8章 コウノトリを軸にした小さな自然再生が生み出す多元的な価値:兵庫県豊岡市田結地区の順応的なコモンズ生成の取り組み(菊地直樹)
(小さな村の大きな出来事/コウノトリの野生復帰/コウノトリの生息地づくりへの思い/重層する田んぼへの思い/小さな自然再生の多元的な価値 ほか)

第9章 環境統治性の進化に応じた公共性の転換へ:横浜市内の里山ガバナンスの同時代史から(松村正治)
(里山保全にかかわる多様なアクター/求められる生物多様性という観点/環境統治性の進化と当事者のいらだち/ガバメント型公共性を正当化する市民社会/里山ガバナンスにふさわしい公共性の転換へ ほか)

第10章 まなびのコミュニティをつくる:石垣島白保のサンゴ礁保護研究センターの活動と地域社会(清水万由子)
(サンゴ礁に迫る危機と人びとの暮らし/サンゴ礁保全活動と地域社会での取り組み/サンゴ礁保全とまなびのコミュニティ ほか)

第11章 グローバルな価値と地域の取り組みの相互作用:有明海の干潟における順応的ガバナンスの形成(佐藤 哲)
(解放系としての地域コミュニティ/相互作用と相互変容のダイナミズム/順応的ガバナンスを駆動する仕組み ほか)

第12章 持続可能性と順応的ガバナンス:結果としての持続可能性と「柔らかい管理」(丸山康司)
(「堅い保全」と「柔らかい保全」/市場の失敗と政府の失敗/「柔らかい管理」の可能性/抑圧的環境保全からの解放/結果としての持続可能性と「柔らかい保全」 ほか)

終章 「ズレ」と「ずらし」の順応的ガバナンスへ:地域に根ざした環境保全のために(宮内泰介)
(環境保全の活動には幅広いズレが存在する/ずらす:複数の解と多様な道筋/多声性と質的調査/順応的なガバナンスのあり方)

著者紹介

宮内 泰介(ミヤウチ・タイスケ)

1961年生まれ。東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。博士(社会学)。北海道大学大学院文学研究科教授。専門は環境社会学。
主要業績:『歩く、見る、聞く 人びとの自然再生』(岩波新書、2017年)、『シリーズ 環境社会学講座 6 複雑な問題をどう解決すればよいのか——環境社会学の実践』(三上直之と共編著、新泉社、2024年)、『どうすれば環境保全はうまくいくのか――現場から考える「順応的ガバナンス」の可能性』(編著、新泉社、2017年)、『なぜ環境保全はうまくいかないのか――現場から考える「順応的ガバナンス」の可能性』(編著、新泉社、2013年)、『宇井純セレクション』(共編著、新泉社、2014年)、『実践 自分で調べる技術』(上田昌文と共著、岩波新書、2020年)、『かつお節と日本人』(藤林泰と共著、岩波新書、2013年)、『開発と生活戦略の民族誌――ソロモン諸島アノケロ村の自然・移住・紛争』(新曜社、2011年)、『半栽培の環境社会学――これからの人と自然』(編著、昭和堂、2009年)、『コモンズをささえるしくみ――レジティマシーの環境社会学』(編著、新曜社、2006年)、『コモンズの社会学――森・川・海の資源共同管理を考える』(井上真と共編著、新曜社、2001年)。

関連書籍

  • どうすれば環境保全はうまくいくのかFTP
  • 複雑な問題をどう解決すればよいのか
  • どうすればエネルギー転換はうまくいくのか
  • 誰のための熱帯林保全か
  • マーシャル諸島 終わりなき核被害を生きるFTP
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