フィンランド 虚像の森
近刊

森と湖の国の暗翳を暴く!

フィンランド 虚像の森

  • アンッシ・ヨキランタ/ペッカ・ユンッティ/アンナ・ルオホネン/イェンニ・ライナ/著
  • 田中 淳夫/監訳
  • 上山 美保子/訳
  • 四六判
  • 456頁
  • 3200円+税
  • ISBN 978-4-7877-2204-1
  • 2022.08.30発行
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紹介文

森と湖の国・フィンランドは世界有数の林業国家。日本からもフィンランド林業に憧れて留学する人が後を絶たない。
フィンランドで林業を語る際、林業関係者、行政担当者、一般市民までもがよく口にするフレーズがある。それは、「フィンランドでは、1年間に樹木が成長する量を計算し、その成長量を超える伐採はしないよう厳格に規定されているので、森林資源が枯渇することはない」。だから持続可能な林業を推進していると言われるのだが、その実態は、無謀な排水事業による植林とその後の皆伐、そして一斉造林を繰り返す大規模な林業である。
実は、この森林施業が機能しているのは南フィンランドだけで、北部のラップランドでは、皆伐後、一斉造林をして四半世紀が経つにもかかわらず、木が全く生えてこない荒れ地がひろがる。
本書はそんなフィンランドの森と林業の実態について告発した本である。確かに本書に掲載された写真からは、森と湖の美しいフィンランドは実感できない。荒れ地に数本だけ立つ細いアカマツや湖に流れ込んだ泥炭、100ヘクタールを超える皆伐地など、絶望的な森の姿ばかりである。
また本書では、皆伐と一斉造林を繰り返すフィンランド林業の形が生まれたのは、ロシア(ソ連)との冬戦争に負けたためだと説明されている。つまり賠償金を支払うために、森の木を伐ってお金にしたというのだ。
ところが近年、こうした大規模なフィンランド林業の在り方に疑問を持つ人々が出てきた。本書を執筆したジャーナリストも疑問を持つ者たちである。彼らは、森林学の研究家、林業家、森林所有者、環境問題の活動家、ハンター、ラップランドの原住民であるサーミの人びとなど、森に関わる多くの人たちにインタビューして、フィンランドの森の現状を世に知らしめようと試みたのである。
2019年5月の発売後、ノンフィクションとしてはフィンランドでは異例の売れ行きで重版となった本書は、2019年のフィンランディア文学賞ノンフィクション部門を受賞した。まさに、フィンランドの不都合な森と林業の真実について告発した一冊である。

目次

フィンランド全土と「フェンノスカンディア」エリア地図
はじめに

ⅰ これがかつてのフィンランドの森

●昔々の森のおはなし
私たちが失った森のこと イェンニ・ライナ
●トゥルクの町よりも古いマツ
現存している古木の中で最長寿の木は、コロンブスが新大陸を発見した頃に芽吹いている イェンニ・ライナ
●掘り返された大地
開墾から始まったフィンランドという国の生き方、異論を唱える者の封じ込め〈戦後の森林政策の概略〉 ペッカ・ユンッティ
●祖国のために
ロマン派狩猟文学の父A・E・ヤルヴィネンが北部の原生林を伐採した理由 ペッカ・ユンッティ

ⅱ 痕跡

●伝承街道
消滅の危機にある、民族叙事詩カレワラをフィンランドへと伝えた中世から続く街道 イェンニ・ライナ
●向かう先は、次なる伐採
オリエンティア、ミンナ・カウッピ、瀕死の苔むした森に途方に暮れる アンナ・ルオホネン
●言葉にしてはいけないこと
ネイチャートラベルとログハウスメーカー、自然のフィールドと樹木を失った顚末 イェンニ・ライナ
●軟弱な木
まともな建材がなくなったのは、森づくりを急かせたからだ イェンニ・ライナ
●黒い水が出た
森から流れ出た水が水源となる湖とエリマキシギの住む湿地帯とブラウントラウトの棲む急流の棲息環境を、林業が破壊した。環境破壊の広がるありさまに研究者たちも絶句している ペッカ・ユンッティ
●マダニのヘラジカ祭り
人工林は、マダニの宿主になる野生動物が生息しやすい住環境を作り出した イェンニ・ライナ
●数千ものアブが寄生する棲みか
ヘラジカの数が増えるとアブの数も増える イェンニ・ライナ
キンメフクロウの声は、まだしばらく聞くことができるだろう
森に棲む鳥のこと、古い森の喪失とともに消える自然のお話 アンナ・ルオホネン
●破壊の一途をたどる狩猟の聖地
猟師エートゥ・サウッコリーピ、人工林からフィンランド最後の原野へ、西ラップランド、生き物たちの逃避 ペッカ・ユンッティ
●森が回復すると何が回復するのか
森についての話をすると、森の手入れ方法にも話が広がる アンナ・ルオホネン

ⅲ 新旧交代

●バイオレメディエーション 生物学的環境修復
製紙(パルプ)業界が多くの人を惹きつけるバイオエコノミーへ変貌した道のり イェンニ・ライナ
●計算せよ、信ずるな
研究者サンポ・ソイマカッリオにとって、気候変動における森の役割は自然科学の現実であって、私見を求めるものではない アンナ・ルオホネン
●森へ出かけた
森林や気候変動について、深く根を張った常識を訂正する アンナ・ルオホネン
●森林戦争と平和
イナリ地方で数十年続いた森林論争を待ち受けていた思いがけない結末 ペッカ・ユンッティ

ⅳ 選択のとき

●未来への遺産
いかにして森の捕食者クズリが森の守護神になったのか、いかにしてこの森を次の世代も享受できる森にしようと多くの人が考えているのか ペッカ・ユンティ
●森林売買という名の森林破壊
森を森として維持した方が皆伐を繰り返すよりも生産性が高いことがわかっているにもかかわらず、なぜ、沈黙しているのか アンナ・ルオホネン
●木材の量以外にも価値がある
森林で稼ぐ方法は伐採だけではない ペッカ・ユンッティ
●土の下の森
森の生態系(エコシステム)を守るキノコとバクテリア アンナ・ルオホネン
●北のボルネオ―目にも見える変化
森の自然を守るには、体系立ったひと続きの森が必要である。ひと続きの森を可能にするための考え方とは イェンニ・ライナ

謝辞

訳者あとがき

解説 絶望か希望か。日本の林業を撃つ書 田中淳夫

出版社からのコメント

美しい森と湖の国、サンタクロースやムーミンを生んだ国、サウナ発祥の地、さらには福祉でIT先進国…。日本人がフィンランドに抱くイメージは、どこまでも憧れの対象でしょう。ところが実態はどうも違うようです。少なくとも美しい森と湖は幻想であるらしいのです…。
本書はフィンランドの森と林業の現状について告発した書です。あまりに日本人が抱くイメージと違うので、びっくりするでしょうが、今後の日本の林業政策、環境政策を考えるうえで、必ず役に立つはずです。
巻末に『絶望の林業』の著者である森林ジャーナリスト・田中淳夫氏の解説も収録しました。日本の林業とフィンランドの林業を比較し、将来の展望を欠いた両国の林業の現状を解説してもらいました。

著者紹介

アンッシ・ヨキランタ/ペッカ・ユンッティ/アンナ・ルオホネン/イェンニ・ライナ(ANSSI JOKIRANTA, PEKKA JUNTTI, ANNA RUOHONEN JA JENNI RÄINÄ)

アンッシ・ヨキランタ、ペッカ・ユンッティ、アンナ・ルオホネン、イェンニ・ライナは、北部フィンランド出身の若手ジャーナリストである。メンバーには、ノンフィクション・ライター、森林所有者、自然の中での活動好きという横顔がある。
イェンニ・ライナは、フィンランディア文学賞ノンフィクション部門やボスニア文学賞に作品がノミネートされた。ペッカ・ユンッティは、ボンニエル社主催のジャーナリスト賞を読者人気カテゴリーで受賞。アンッシ・ヨキランタは、ラピン・カンサ紙のカメラマンである。

田中 淳夫(タナカ・アツオ)

1959年大阪生まれ。静岡大学農学部を卒業後、出版社、新聞社等を経て、フリーの森林ジャーナリストに。森と人の関係をテーマに執筆活動を続けている。主な著作に『森は怪しいワンダーランド』『絶望の林業』『虚構の森』(新泉社)、『獣害列島 増えすぎた日本の野生動物たち』(イースト新書)、『森林異変』『森と日本人の1500年』(平凡社新書)、『鹿と日本人―野生との共生1000年の知恵』『樹木葬という選択』(築地書館)、『ゴルフ場に自然はあるか? つくられた「里山」の真実』(ごきげんビジネス出版・電子書籍)ほか多数。

上山 美保子(ウエヤマ・ミホコ)

東京生まれ。東海大学文学部北欧文学科卒業。大学在学中にフィンランド・トゥルク大学人文学部フィンランド語学科留学。主な訳書は『フーさん』シリーズ(国書刊行会)。翻訳監修に『フィンランド・森の精霊と旅をする』(プロダクション・エイシア)がある。

関連書籍

  • 虚構の森
  • 絶望の林業
  • 誰のための熱帯林保全か
  • 森を守るのは誰かFTP
  • 燃える森に生きるFTP
  • 森は怪しいワンダーランドFTP