パンデミック下の書店と教室

コロナの時代に本を読み、学び、考えることの意味を問い直す。

パンデミック下の書店と教室

考える場所のために

  • 小笠原 博毅/著
  • 福嶋 聡/著
  • 四六判
  • 224頁
  • 1800円+税
  • ISBN 978-4-7877-2000-9
  • 2020.11.28発行
  • [ 在庫あり ]
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書評・紹介

紹介文

◎関口竜平さん評(『図書新聞』2021.3.6)
《人文知…というテーマには常に断絶がつきまとう。…必要なのは、その断絶の間を行ったり来たりすることであり、その往復のために必要なのが人文知なのだ》

◎柴崎友香さん評(「読売新聞」2021.2.21)
《学びや人間関係にさえ即効性ばかりが求められる時代に、どう人との関係を作っていくか、社会のあり方を問い続けていくか、強く支えられるような対話だ》

◎新開真里さん評(「神戸新聞」2021.2.7)
《両者は、それぞれの現場での実践や模索をぶつけ合い、政治や教育、哲学、延期された東京五輪…と話題は広がる》

◎沢渡曜さん評(『望星』2021年2月号)
《社会の現実を見据えて、排除の思想に議論・反論をぶつけていく。そこに客を巻き込んでいくのが大切なのだ、と》

◎「産経新聞」2021.1.31
《往復書簡に加筆、対談やエッセーも収録した。 緊急事態宣言下の書店と教室という知の現場からの報告には臨場感がある》

◎永江朗さん評(「北海道新聞」2021.1.24)
《借り物ではない、自前の、手持ちの知識で考えていくスリリングな楽しさが、書店と教室にはあるのだ。…自分でものを考えるきっかけとなる本》

 

パンデミックは現在進行中であり……その終わりを予測したり期待したりすることに対しては、冷静な思考の「遠近感」を保たねばならない。この遠近法の習得のためのコーチングこそ、人文知ができることではないだろうか。
——本書より

「決して心地よいものでない共生」。このメタファーを、大事にしたいと思います。これはウイルスとの対峙の仕方にとどまらないものだからです。
——小笠原博毅

感染のリスクをおかして外出し、お金を支払って書籍や雑誌を購入してくれる来店客一人ひとりを見ていると、どんな本でも「不要不急」のものとは思えないのです。
——福嶋聡

いまもなお「人文知」は必要だ。新型コロナウイルスの感染拡大によってあらわになった民主主義の問題、分断や格差の問題。コロナの時代に本を読み、学び、社会について考えることの意味を、書店や教室の現場から問い直す。小笠原博毅(神戸大学大学院国際文化学研究科教授)と福嶋聡(ジュンク堂書店難波店店長)による往復書簡、エッセイ、対談を収録した評論集。巻末にブックガイドも掲載。

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目次

はじめに 考える場所のために 小笠原博毅

Ⅰ 書店論

第一信 「決して心地よいものでない共生」を生きる 小笠原博毅
「書店」という場所に期待される意味と機能/命の分水嶺で人文学やカルチュラル・スタディーズには何ができるのか/多様な価値観、異なる意見をぶつけながら共生する社会

第二信 どんな本でも「不要不急」のものとは思えない 福嶋聡
二〇〇〇年前後のトークイベントのはじまり/予定調和を破る空間こそ書店の存在理由ではないか/「言論のアリーナ」から「災害ユートピア」へ——世界のよりよき変革可能性を信じたい

エッセイ いまもなお本はライフラインだった 福嶋聡

Ⅱ 教室論

第三信 パンデミックと教室 小笠原博毅
「不要不急」を一律に強制する「剝き出しの政治」/教室はそこにとどまりつつ想像をめぐらして旅をする場所/変わりゆくものと変わらずにとどまるものとの両極分化——アフター・コロナ的な「分断」?

第四信 民主主義と公園 福嶋聡
「自発的隷従」と効率化の思想に抗う教室/書店というメディア——闘技場のリテラシーを考える/教室と書店の弁証法的ダイナミズム——「無駄」や「余計」、「外部」や「他者」に開かれていること

Ⅲ パンとサーカスと弁証法

第五信 「パンとサーカス」という舞台を構成しないものたち 小笠原博毅
民主主義からのエクソダスの波に対して/「パンとサーカス」という比喩を問い直す/左右のポピュリズムに乗らない「発話の手段」として教室を開く

第六信 書店の日常と弁証法 福嶋聡
「弁証法」の本来の意味は「正」―「反」の緊張感の中にある/書店員教育における「主人と奴隷の弁証法」/「書店の日常」の中に「発話の手段」への貢献はあり得るか

エッセイ 「どうせやるなら派」から「コロナ転向派」へ、そして暴かれる五輪「ムラ」小笠原博毅

Ⅳ 言葉のパンデミックに抗うために

第七信 言葉のパンデミックとは何か 小笠原博毅
トニ・モリスン『ビラヴド』を読み直す/言葉のパンデミックと不寛容の出現/そのただ中で、しかしその一部ではなく——「許容」するための読書

第八信 「本屋はわたしの学校だった」 福嶋聡
大声で発せられる「言葉」に支配されないこと/言葉の「豊穣の海」を社会において体現するのが書店/「本屋はわたしの学校だった」——パトスの中でパッションの灯を消さないために

Ⅴ 対談 書店と教室、人文知の現場から見えてきたこと 小笠原博毅×福嶋聡
パンデミック下で人文知は無力でも非実用的でもない/「自粛か自主か」のはざまで社会の解像度が上がる/「不公平」という意識の境界線をつくるものは何か/対話の最後に——そして考える場所は続く

おわりに 〈未来の自分〉と読書 福嶋聡

ブックガイド 本書で取り上げた本やテクスト&パンデミックについてさらに考えるための五冊
初出一覧

著者紹介

小笠原 博毅(オガサワラ・ヒロキ)

1968 年生まれ。神戸大学大学院国際文化学研究科教授。ロンドン大学ゴールドスミス校社会学部博士課程修了。社会学Ph.D。スポーツやメディアにおける人種差別を主な研究テーマに据え、カルチュラル・スタディーズの視座から近代思想や現代文化を論じている。近年は、東京オリンピックや大阪万博の開催に一貫して異議を申し立て、批判を展開している。
著書に『セルティック・ファンダム―グラスゴーにおけるサッカー文化と人種』(せりか書房)、『真実を語れ、そのまったき複雑性において―スチュアート・ホールの思考』(新泉社)。共著に『やっぱりいらない東京オリンピック』(岩波ブックレット)。編著に『黒い大西洋と知識人の現在』(松籟社)、共編著に『サッカーの詩学と政治学』(人文書院)、『反東京オリンピック宣言』(航思社)。

福嶋 聡(フクシマ・アキラ)

1959 年、兵庫県生まれ。ジュンク堂書店難波店店長。京都大学文学部哲学科卒業。
著書に『書店人のしごと―SA 時代の販売戦略』『書店人のこころ』(以上、三一書房)、『劇場としての書店』(新評論)、『紙の本は、滅びない』(ポプラ新書)、『希望の書店論』『書店と民主主義―言論のアリーナのために』(以上、人文書院)、『書物の時間―書店店長の想いと行動』(けやき出版)。共著に『フェイクと憎悪―歪むメディアと民主主義』(大月書店)。

関連書籍

  • 真実を語れ、そのまったき複雑性において
  • 書店員の仕事FTP