目の眩んだ者たちの国家

傾いた船、降りられない乗客たち

目の眩んだ者たちの国家

  • キム・エラン/著
  • パク・ミンギュ/著
  • ファン・ジョンウン/著
  • キム・ヨンス/著
  • 矢島 暁子/訳
  • 四六判上製
  • 256頁
  • 1900円+税
  • ISBN 978-4-7877-1809-9
  • 2018.05.25発行
  • [ 在庫あり ]
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書評・紹介

紹介文

「どれほど簡単なことなのか。希望がないと言うことは。この世界に対する信頼をなくしてしまったと言うことは。」
――ファン・ジョンウン

国家とは、人間とは、人間の言葉とは何か――。
韓国を代表する気鋭の小説家、詩人、思想家たちが、
セウォル号の惨事で露わになった「社会の傾き」を前に、
内省的に思索を重ね、静かに言葉を紡ぎ出す。

「私たちは、生まれながらに傾いていなければならなかった国民だ。
傾いた船で生涯を過ごしてきた人間にとって、この傾きは安定したものだった。」
――パク・ミンギュ

「みんな本当は知っているのに知らないふりをしていたり、知りたくなくて頑なに知らずにきたことが、セウォルという出来事によって、ぽっかりと口を開けて露わになってしまったのだ」
――ファン・ジョンウン

「私たちが思う存分憐れみを感じられるのは、苦痛を受ける人たちの状況に私たち自身が何の責任もないと思うときだけだ。」
――チン・ウニョン

「「理解」とは、他人の中に入っていってその人の内面に触れ、魂を覗き見ることではなく、その人の外側に立つしかできないことを謙虚に認め、その違いを肌で感じていく過程だったのかもしれない。」
――キム・エラン

「人間の歴史もまた、時間が流れるというだけの理由では進歩しない。
放っておくと人間は悪くなっていき、歴史はより悪く過去を繰り返す。」
――キム・ヨンス

◎中島京子氏評「2018年の「この3冊」」(「毎日新聞」2018年12月16日)
《傾いた船に乗って沈もうとしているのは私たちだと感じている昨今、その苦しみを噛みしめながら書かれた言葉に打たれる。》

 

装幀:北田雄一郎

目次

傾く春、私たちが見たもの…………キム・エラン
質問…………キム・ヘンスク
さあ、もう一度言ってくれ。テイレシアスよ…………キム・ヨンス
目の眩んだ者たちの国家…………パク・ミンギュ
私たちの憐れみは正午の影のように短く、私たちの羞恥心は真夜中の影のように長い…………チン・ウニョン
かろうじて、人間…………ファン・ジョンウン
誰が答えるのか?…………ぺ・ミョンフン
国家災難時代の民主的想像力…………ファン・ジョンヨン
じゃあ今度は何を歌おうか?…………キム・ホンジュン
永遠の災難状態:セウォル号以降の時間はない…………チョン・ギュチャン
精神分析的行為、その倫理的必然を生き抜かなければならない時間:抵抗の日常化のために…………キム・ソヨン
セウォル号の惨事から何を見て、何を聞くのか…………ホン・チョルギ

本を編んで…………シン・ヒョンチョル(季刊『文学トンネ』編集主幹)

出版社からのコメント

◎「セウォル号以後文学」の原点

2014年4月16日に起きたセウォル号事件。修学旅行の高校生をはじめ、助けられたはずの多くの命が置き去りにされ、失われていく光景は韓国社会に強烈な衝撃を与えました。
私たちの社会は何を間違えてこのような事態を引き起こしたのか。本書は、セウォル号事件で露わになった「社会の傾き」を前に、現代韓国を代表する小説家、詩人、思想家ら12人が思索を重ね、言葉を紡ぎ出した思想・評論エッセイ集です。
本書に寄稿している作家たちの文学作品は、近年、日本でも広く翻訳出版され、多くの読者を獲得するようになりました。それら新世代の作家が深く沈潜した場所から発した研ぎ澄まされた言葉の数々は、揺るぎない普遍性を獲得し、「震災後」の世界を生きる日本の私たちの心の奥深くに届くものであると確信しています。

《本書に収録された文章は、季刊「文学トンネ」2014年夏号と秋号に掲載された後、同年10月に単行本化されて韓国で増刷を重ね、多くの人に読まれてきました。キム・エラン作『外は夏』に代表される韓国の「セウォル号以後文学」の原点といえる本書を通して、韓国の作家たちが喪失と悲しみにどう向き合ったのかを知っていただければと願っています。》

・キム・エラン……『外は夏』(亜紀書房)、『走れ、オヤジ殿』(晶文社)、『どきどき僕の人生』(クオン)ほか
・パク・ミンギュ……『ピンポン』(白水社)、『カステラ』(クレイン)、『亡き王女のためのパヴァーヌ』(クオン)、『三美スーパースターズ 最後のファンクラブ』(晶文社)ほか
・ファン・ジョンウン……『誰でもない』(晶文社)、『野蛮なアリスさん』(河出書房新社)ほか
・キム・ヨンス……『夜は歌う』(新泉社)、『世界の果て、彼女』(クオン)、『ワンダーボーイ』(クオン)ほか

著者紹介

キム・エラン(金愛爛/김애란)

小説家。『外は夏』(亜紀書房)、『走れ、オヤジ殿』(晶文社)、『どきどき僕の人生』(クオン)ほか。

パク・ミンギュ(朴玟奎/박민규)

小説家。『ピンポン』(白水社)、『カステラ』(クレイン)、『亡き王女のためのパヴァーヌ』(クオン)、『三美スーパースターズ 最後のファンクラブ』(晶文社)ほか。

ファン・ジョンウン(黄貞殷/황정은)

小説家。『誰でもない』(晶文社)、『野蛮なアリスさん』(河出書房新社)ほか。

キム・ヨンス(金衍洙/김연수/KIM Yeon-su)

一九七〇年、慶尚北道金泉生まれ。成均館大学英文科卒業。
一九九三年、詩人としてデビュー。翌年、長編小説『仮面を指差して歩く』を発表し、本格的に創作活動を始める。『七番国道』『二十歳』『グッバイ、李箱』『僕がまだ子どもだった頃』『愛だなんて、ソニョン』『ぼくは幽霊作家です』『君が誰であれ、どんなに寂しくても』『波が海のことなら』などの話題作を次々と発表する。
韓国現代文学の第一人者と評され、『ぼくは幽霊作家です』で大山文学賞、『七年の最後』で許筠文学作家賞、ほかに、東仁文学賞、黄順元文学賞、李箱文学賞など数多くの文学賞を受賞。
邦訳書に、『夜は歌う』『ぼくは幽霊作家です』『七年の最後』(新泉社)、『世界の果て、彼女』『ワンダーボーイ』『ニューヨーク製菓店』(クオン)、『四月のミ、七月のソ』『波が海のさだめなら』(駿河台出版社)、『皆に幸せな新年・ケイケイの名を呼んでみた』(トランスビュー)、『目の眩んだ者たちの国家』(共著、新泉社)。

矢島 暁子(ヤジマ・アキコ)

韓日翻訳者。学習院大学文学部卒業。高麗大学校大学院国語国文学科修士課程で国語学を専攻。
訳書に『世界の中のハングル』(洪宗善ほか著、三省堂、2016年)。

関連書籍

  • 夜は歌う
  • イスラーム精肉店
  • 海女たち
  • 〈戦後〉の誕生FTP
  • さすらう地
  • 原点としての水俣病FTP
  • 公害に第三者はないFTP
  • 加害者からの出発FTP