古式ムエタイ見聞録

謎の武術を求めて

古式ムエタイ見聞録

  • 伊藤 武/著
  • A5判
  • 272頁
  • 2500円+税
  • ISBN 978-4-7877-2323-9
  • 2024.04.08発行
  • [ 在庫あり ]

紹介文

「立ち技最強」といわれるタイの国技ムエタイ。そこには数百年にわたる知られざる前史があった。絶えざる戦乱の時代、他国の侵攻に対抗するために戦場でみがかれた戦闘技術は、一瞬で人体を破壊する投げや関節技など、極めて危険で実戦的な技を含んでいた。危険な技を制限しスポーツとして体系化したのが現在の姿である。ならばその「起源」とは──。
インド古代叙事詩『ラーマーヤナ』、ルゥシー(仙人)、英雄ナレースワン、アユタヤの地を跳梁するサームーレイ(サムライ)……伝説と歴史の闇の奥に見え隠れする武技をつないだ人々の姿。長年東南アジア諸国を放浪し、実地で「古式ムエタイ」を学んだ著者がその真の姿をあきらかにする決定版。

目次

1 巨象との闘争 パジョン・チャーン・サーン
ムエタイの来た道
『ラーマキエン』の魔法のことば
チャイヤー拳法VSコーラート拳法

2 戦士の護符 ヤン・ヨーティー
チャイ・ナーム、チャイ・ナーム(水の心、水の心)
痛みを感じているヒマがない?
アーユルヴェーダとの接点

3 三歩制圧 ヤーン・サーム・クム
ムエタイの神話
密教的なヨーガ
パフユッ(シャム拳法)のルーツ?

4 矢を射るラーマ プララーム・プラン・ソーン
謎にみちたシャム武術史
戦士の食卓
ナーヤル──神王の軍団
ソワンナプーム・ボクシング

5 猿を捕る夜叉 クンヤッ・ジャブ・リン
リンロム、または猴拳
「ムエタイ五百年」の歴史
クラビー・クラボーン

6 刀をふるう侍 サームーレイ・パウヤウ・カータナー
ヒーローはおれだ
ナレースワン伝説
シャムと日本をつなぐ人々

7 師なる構え タークー
チャイヤーラット道場
最初のレッスン
基本の構え

8 武器の精神 チャイ・アーウッ
ドリアン拳法
入門式
シャム武術の正統

9 乙女をさらう夜叉 クン・ヤッ・パー・ナーン
チャイヤー拳法のはじまり
宗師(グランドマスター)ケット・シーヤーパイ
サームーレイの技?
ヤマダ・ナガマサ

10 魚の互え歯 サラブ・ファン・プラー
首投げ?
母技(メーマイ)
体さばきの基本

11 風に吹かれし風車 カンガン・トン・ロム
道場やぶり
〈須弥山の持ち上げ〉(ヨッ・カオ・プラスメール)
〈象牙砕き〉(ハッ・ングワン・アイヤラー)
小をもって大を制す

12 金剛石柱の破砕 ハッ・ラック・ペッ
トニー・ジャーのアクション
〈杭打ち〉(パッ・ルーッ・トイ)
〈尾を捻じられた竜〉(ナーガ・ビッ・ハーン)
〈蛇行剣をうがつイナオ人〉(イナウ・タエン・クリッ)
気持ちをこめる

13 おしっこ洩れそ タワーン・イオ
基礎訓練
〈槍を擲げるジャワ人〉(チャワ・サッ・ホック)
〈巣から覗く鳥〉(パクシャー・ワエ・ラン)
〈魔象の首を折る〉(ハッ・コー・エラワン)

14 森を歩むラーマ プララーム・デアン・ドン
まわし蹴りの謎
前蹴りの基本
〈柱を支えるモン人〉(マオン・ヤン・ラック)
微笑みの背後に潜むもの
〈はね返される光輝〉(ウィルーン・ホッ・クラブ)

15 尾をうち振る龍 マンコーン・ファード・ハーン
〈尾をうち振る鰐〉(ジャラケー・ファード・ハーン)
基礎訓練「尾を断つ龍」(マンコーン・ラウン・ハーン)
恐竜の武術?
〈ふりむく鹿〉(クワーン・リエウ・ラン)

16 世界を拓く拳 マッ・ピアド・ローク
ムエタイのパンチ
〈石突きを撥ねあげる翁〉(ター・テン・カム・ファーッ)
〈消灯〉(ダブ・チャワラ)
ムエファラン(西洋拳法)登場

17 寺を掃く沙弥 テン・クワッ・ワット
御前試合の顚末
古式ムエタイの完成
植民地と武術

18 瓜の飾り切り ファン・ルーク・ブアッ
子技(ルークマイ)
軸脚へのカウンター
肘打ち
ムエの国技化

19 鶏をつつく鴉 カー・ジグ・カイ
ビルマとの対抗戦
現代代ムエタイの完成──シンプルゆえの強さ
しかし足、拳にかなわず

20 薬を碾く仙人 ルゥシー・ボド・ヤー
チャイヤー拳法のその後
なぞの仙人たち
からだの秘密
ムエタイの〝いやし〟

21 空飛ぶハヌマーン ハヌマーン・ヒエン
ムエタイは、どこから来たのか?
幽体離脱現象
跳躍するハヌマーン
ハヌマーンの法
では、ムエタイはインドから来たのか?
ハヌマーンの正体

参考文献
あとがき

出版社からのコメント

かつて生身では不可能に見えるアクションを、ワイヤーも、CGも、スタントも、早回しも、なにもかも使わず肉体一つで撮影するという、アクション映画としては極めて無謀な試みにもかかわらず、その圧倒的な迫力から大きな話題をさらったタイ映画「マッハ!!!!!!!!」「トム・ヤム・クン!」。これらの映画で主人公のトニー・ジャーが用いたのが、伝説的な格闘技「古式ムエタイ(ムエボーラン)」です。

それでは「古式ムエタイ」とはなにか──。「古式ムエタイ」とは、現在タイの国技となっている「ムエタイ」の原型となった格闘技です。元々は戦争の絶えない時代に他国の侵攻に対抗するために作られたとされており、現代のムエタイに比べ非常に危険な投げ技や関節技などの技術を含んでおりました。危険な技を制限し、グローブの使用や、体重制、ラウンド制などの明確な競技ルールを設け、スポーツとして体系化したのが現在行われている競技・試合形式のムエタイです。伝説では(タイでは『ラーマキエン』として知られる)インド神話『ラーマーヤナ』の登場人物であるラーマ王子を始祖とするといい、そのため「ランカーを攻めるラーマ」「矢を折るラーマ」「腓を運ぶハヌマーン」「指環を捧ぐハヌマーン」など『ラーマーヤナ』にちなむ技法名が数多くあります。

本書はこの「古式ムエタイ」の技術と歴史と文化を、著者による詳細なイラスト入りで紹介する日本で初めての本です。著者の伊藤武は20代の頃からアジアを広く放浪し、タイで実地に「古式ムエタイ」と現在の「ムエタイ」を学んだ数少ない日本人。著者が「古式ムエタイ」を知った1970年代後半から80年代は、生活様式の変化にともない古い文化が失われていく時期でもありました。そのようななかで、道場に寝泊まりして現地の人々と生活をともにし、フィールドワーカーとして残した記録は非常に貴重なものです。アクション映画、武術、格闘技好きだけではなく、熱いアジアの旅を愛する方々にも読んでいただければ幸甚です。

著者紹介

伊藤 武(イトウ・タケシ)

1957年、石川県出身。作家、イラストレーター。
サンスクリット語とヨーガの講師、古式ムエタイをはじめとした東南アジア伝統武術の研究を行う。1979年、最初のインド旅行に出発。約2年間にわたってインド全土、ネパール、スリランカ、タイを放浪する。以後もこれらの地域を繰り返し訪問し、遺跡調査、神話・伝説、風習、武術、食文化等の収集に努める。インド研究家として周辺地域の歴史や文化にも造詣が深い。全国でオリジナルテキストを用いたサンスクリット語講座等を開催。サンスクリット語の原文から翻訳されたヨーガスートラは難しい用語を使わずに説明され人気を博している。また、自身によるイラストは難解なインド哲学を理解する手助けになると定評がある。
著書に『図説ヨーガ大全』(佼成出版社)、『スパイスの冒険』『秘伝マルマ ツボ刺激ヨーガ』『全アジアを喰らう』『身体にやさしいインド』『図説インド神秘事典』(以上、講談社)、『古式ムエタイ見聞録』『ヴェールを脱いだインド武術〔増補改訂版〕』(以上、新泉社)、『図説ヨーガ・スートラ』『チャラカの食卓 二千年前のインド料理』〔共著〕(以上、出帆新社)、など多数。

関連書籍

  • ヴェールを脱いだインド武術〔増補改訂版〕