田中克彦セレクシヨンI
カルメンの穴あきくつした
自伝的小篇と読書ノート
- 四六判上製
- 424頁
- 3200円+税
- ISBN 978-4-7877-1821-1
- 2017.11.25発行
- [ 在庫あり ]
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書評・紹介
紹介文
半世紀にわたる執筆作品を全4巻に整理・編集し、言語学者・田中克彦の思考の足跡をたどる。セレクシヨンIである本書『カルメンの穴あきくつした』には、自伝的なエッセイから書評、社会批評などを収録する。
■言語学者であり、モンゴル学者である田中克彦は、1961年(27歳)から今日83歳に至るまで、新聞、雑誌、ミニコミ誌などから、求められるままに170篇ほどの小文・雑文を書いてきましたが、その大部分がこれまでの著書には含まれていません。
それらは田中の好みを存分に発揮したものである以上に、また言論界が田中に求めた折々の関心の推移をも反映した興味深いものであります。そして、これらはまた、過去60年にわたる日本社会の変貌をも映し出す結果となっています。
このたび、これら小文・雑文類を『田中克彦セレクシヨン』として4巻に分け、それぞれ、I.自伝的小篇と読書ノート篇、II.言語と言語学史篇、III.スターリン言語学から社会言語学へ、Ⅳ.モンゴルと中央アジア篇として、順次刊行することになりました。
セレクシヨンIである本書『カルメンの穴あきくつした』には、自伝的なエッセイから書評、社会批評などが収録されています。田中の興味の広さ、深さを再認識できるとともに、言語学的考察にもとづく田中の論は、多様性が求められる現代にこそ読んでおきたい書であります。
目次
小論集「田中克彦セレクシヨン」のまえがき
第一章 大学流浪
山紫水明・地方大学のすすめ
西先生がお住持になるのをやめた話
新しい人間関係の発見のために
専門が人と思想を殺す
大学の授業と市民講座のちがいについて
今日の大学と学問を考える ―文学部不用論をめぐって
大学と人文学の伝統
《読書ノート》『文字学の現在』
ヘレン・ケラーが明らかにした「ことばとは何か」
知識の支配とことばの自由
第二章 読書ノート
《本から本へ》誤解と理解
《本から本へ》帝国の現実 ―ソ連の民族問題
いしゃだおし
野菜と私
大根の葉っぱとイナゴとタニシ
ことばと向きあう人
新しい「文化方言」の試み
《読書ノート》『うつりゆくこそことばなれ』
思想の風貌に向き合う
《読書ノート》『言語と精神』
ことば
《読書ノート》『耳の中の炬火』
《読書ノート》『現代の英雄』
《読書ノート》『饗宴』
カルメンの穴あきくつ下
受難の歴史を生きる「流浪の民」
《読書ノート》『ファーブル伝』
《読書ノート》『フィンランド初代公使滞日見聞録』
《読書ノート》『チベット受難と希望 』
《読書ノート》『ブダペストの世紀末 』
《読書ノート》『言語とその地位』
辞書 ―自由のための道具
《読書ノート》『セ?ストーポリ』
悪魔くんに思う
自立とやさしさ
草加せんべいと入試問題
第三章 亀井孝先生との思い出
亀井先生と過ごした日々
亀井孝先生と共にあった日々
天皇制の言語学的考察 ―ベルリン自由大学における講義ノートより(亀井孝)
解説 寺杣正夫
第四章 モンゴルに向かって
《読書ノート》『トゥバ紀行』
《新聞連載コラム》「私空間」
トルコの鞍/水没した村/神話の語り手/二匹の出迎え
コトバ学の手ほどき
黎明期の近代日本をうつす鏡
意識の底までもぐり込む新聞のことば
《読書ノート》『脳外科の話』
ロシア語 地域公用語化の構想を
騎馬民族説と江上波夫の思い出
ショパンのディアパゾン ―一つの音楽社会学的考察
《読書ノート》『パックス・モンゴリカ 』
《読書ノート》『西北蒙古誌(第二巻)民俗・慣習編』
第五章 ことばと状況
《新聞連載コラム》「随想」
兵庫県の北と南/開戦と敗戦/ある日の東条首相/トンビに腰巻き/神戸のために炭を焼く/雪中行進と弁当検査/清子さんとの別れ/はじめてのヒッチ旅行
ある突飛な空想
カントの嗅ぎタバコ
沖縄に仕掛けるアメリカの謀略
究極の浪費は軍備
レクラム文庫から草原の読書へ
「表現」ということばのエネルギー
《読書ノート》『ブラッドランド 上・下』
豊かにして、おそろしい世界
しのばるる安丸良夫についての断章
《雑誌連載コラム》「今、世界は」
ナシオンが「民族」を食いつぶす/フランス革命が排他的「国語」をつくる/ソビエト同盟(連邦)の歴史的役割/国語ではない「国家語」の出現/「国家語」の花ざかり/「ソビエト人」と「中華民族」/ことばのへだたりと国家の独立/似かよった言語でも一つになりにくい/マルクス主義と青年文法学派/ソシュールの反逆/構造の自然と人工の規範/神と民族のあいだの言語
出版社からのコメント
なぜこの論考を収録したか、どんな経緯で書かれたかなど、収録に当たり、当時を思いや現在の思いを田中自身が加筆しています。歴史の一場面を切り取るような内容もあり、このセレクシヨンの魅力です。