真実を語れ、そのまったき複雑性において

”わかりやすさ”が大手を振るう時代に抗う、カルチュラル・スタディーズとは——

真実を語れ、そのまったき複雑性において

スチュアート・ホールの思考

  • 小笠原 博毅/著
  • A5判
  • 364頁
  • 2800円+税
  • ISBN 978-4-7877-1910-2
  • 2019.06.15発行
  • [ 在庫あり ]

書評・紹介

紹介文

「言葉があった。そして、言葉遣いにとことんこだわった。それが記号と言われようと言説と言われようと、またイデオロギーと言われようと、そこには言葉への強い批判的感受性から生まれる、スチュアート・ホールにしかできない政治への介入の仕方があったのである 」

カルチュラル・スタディーズの理論家、スチュアート・ホール。ジャマイカで生まれ、イギリスに渡ってメディアや現代文化の批判的研究に貢献し、反人種差別をめぐる社会運動や黒人アーティストたちの表現活動にも影響を与えた。民衆(ポピュラー)の具体的な複雑さについて考え、理解し、それを語ること。ホールのもとで学んだ著者が分断の時代に問う、「ポピュリズム」に対峙する知的技能の可能性。

 

◎岡田桂さん書評(「図書新聞」2019.10.26(3420号))
《現在の日本における政治状況…に対峙する上での、複雑で多価的で容易に既存の理論を応用できないような現実に介入する上での、状況を理論化するという試みにおいて、もっとも示唆に富んだ内容》


◎伊藤守さん書評(「週刊読書人」2019.9.27(第3308号))
《本書は、ホールの思索であれ、カルチュラル・スタディーズという名の下で発表された数多くの研究であれ、今後こうした知的な営みを再考し、前進させていく上で、欠かすことができない重要な一冊となった》


◎共同通信配信の紹介記事が以下の新聞に掲載
《小笠原が思想的に大きな影響を受けたのが、ジャマイカ出身でカルチュラル・スタディーズの理論家スチュアート・ホール。…敬愛するホールの思考の軌跡を追った》

2019.8.17 沖縄タイムス、北日本新聞、福島民友
2019.8.18 秋田魁新報、高知新聞、熊本日日新聞
2019.8.19 日本海新聞、大阪日日新聞
2019.8.25 山梨日日新聞、信濃毎日新聞、福井新聞、京都新聞、東奥日報、河北新報、愛媛新聞、南日本新聞
2019.9.1 四国新聞、神奈川新聞ほか

目次

序章 真実を語れ、そのまったき複雑性において
1.「浮遊する記号表現」としての人種
2.「権威主義的ポピュリズム」と人種差別
3.言葉と知的感受性
4.「真実を語れ、だがそのまったき複雑性において」

I パブリック・インテレクチュアルの肖像

第一章 ジャマイカン・ボーイの彷徨

第二章 Over Hall——ジェームズ・プロクター『スチュアート・ホール』によせて

第三章 いまだホールの「教え」に至らず
1.「聞く」老師、ホール
2.還元ではなく分節化の結果としての「具体的なもの」
3.常に「場違い」な「関係性」の知識人

II スチュアート・ホールの理論的実践

第四章 文化と文化を研究することの政治学——スチュアート・ホールの問題設定
1.はじめに
2.文化論の系譜
3.意味生成の場としての文化——ホールによる文化概念の再編成
(1)イデオロギーの再概念化
(2)文化における折衝的実践(negotiating practice)
4.文化的アイデンティティの政治
5.結語——「新たな政治」の領域

第五章 文化政治における分節化——「奪用」し「言葉を発する」こと
1.はじめに
2.ホール批判
(1)「イデオロギー主義」?
(2)「無批判なポピュリズム」?
3.ホール批判の陥穽
(1)ホール批判の袋小路
(2)イデオロギーの理論化と知識人の「位置性」
(3)「ポピュラー」とは誰のことか?
4.奪用=転換の論理
(1)「国家イデオロギー装置」の作動過程に生じる隙間?
(2)階級社会、人種差別社会、性差別社会における国民
5.おわりに

第六章 人種化された国民、国民化された人種
1.文化と「国民‐ポピュラー」の問題
2.左翼知識人の「国民の言語」
3.結論——文化に動きを!

第七章 カルチュラル・スタディーズの終わり
1.消費社会における政治的正しさを文化に求めるその不都合なやり口
2.文化とカルチュラル・スタディーズの「倫理」
3.文化に抗する
4.カルチュラル・スタディーズと「十字路」

Ⅲ カルチュラル・スタディーズの終わりとはじまり

第八章 素描・カルチュラル・スタディーズの増殖について
1.一九七〇年代後半の「パニック」
2.ジョン・ライドンのフィンズベリー・パーク
3.レイモンド・ウィリアムスと文化的人種差別主義
4.少数者性への欲望と「表象の責任(the burden of representation)」

第九章 権力、イデオロギー、リアリティの理論化——批判理論の日本における不幸な歴史の書き換えに向けて

1.誰も知らない知られちゃいけない批判理論
2.メディア批判の一つの原型——アドルノとベンヤミン
3.マス・メディア批判、マス・メディア「研究」批判
(1)マス・コミュニケーション理論とイデオロギーという問題
(2)公共性の創出——メディアの政治経済
(3)マス・コミュニケーション過程への介入——メディアの読み替え戦略
4.批判理論における方法の問題——テクスト主義の功罪
5.近代性、技術、コミュニケーション・メディアと理論

第一〇章 「カップの底のお茶っ葉」——階級の言説性(discursivity)について
1.「階級」の復権?
2.近代イギリスにおける労働者の人種化
3.言説的に考える
4.言説性の指標——「キャンプ・メンタリティ」
5.保証なき階級、保証なき人種——政治経済的なものと文化的なものの物質性

第一一章 文化に気をつけろ!——ネオリベ社会で文化を考える五つの方法
1.「ネオリベ」
2.八〇年代
3.メイド・イン・ジャパン
4.哀/愛
5.移動/異同
6.W・E・B・デュボイス

第一二章 レイシズム再考
1.悪いのはレイシズム
2.「人間」の問題としてのレイシズム
3.変わらなければいけないのはいつも「他者」である

終章 そのただ中で、しかしその一部ではなく(In but not of)

あとがき
初出一覧

出版社からのコメント

「反東京オリンピック宣言」の論客として注目を集める著者がカルチュラル・スタディーズとスチュアート・ホールの思考を読み解き、政治と文化、メディアのあり方を批判的・理論的に考察する本格論考の集大成。〈ポピュリズムの政治〉〈人種差別〉〈「分断」の世界〉など時事的な問題を、より深く理解・検討するための必読書です。

著者紹介

小笠原 博毅(オガサワラ・ヒロキ)

1968 年生まれ。神戸大学大学院国際文化学研究科教授。ロンドン大学ゴールドスミス校社会学部博士課程修了。社会学Ph.D。スポーツやメディアにおける人種差別を主な研究テーマに据え、カルチュラル・スタディーズの視座から近代思想や現代文化を論じている。近年は、東京オリンピックや大阪万博の開催に一貫して異議を申し立て、批判を展開している。
著書に『セルティック・ファンダム―グラスゴーにおけるサッカー文化と人種』(せりか書房)、『真実を語れ、そのまったき複雑性において―スチュアート・ホールの思考』(新泉社)。共著に『やっぱりいらない東京オリンピック』(岩波ブックレット)。編著に『黒い大西洋と知識人の現在』(松籟社)、共編著に『サッカーの詩学と政治学』(人文書院)、『反東京オリンピック宣言』(航思社)。