はるけきモンゴル

言語学者・田中克彦が真実を求めた「モンゴル研究」の57年間の軌跡

田中克彦セレクシヨンIV

はるけきモンゴル

モンゴルと中央アジア篇

  • 田中 克彦/著
  • 四六判上製
  • 640頁
  • 4200円+税
  • ISBN 978-4-7877-1824-2
  • 2018.11.21発行
  • [ 在庫あり ]
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書評・紹介

紹介文

これまで埋もれていた半世紀にわたる執筆作品を自身でセレクトし、整理・編集した著作集の最終巻となるセレクシヨンⅣには、1961年~2018年の57年間にわたるモンゴルとその隣接地域についての論考、計53篇を収めた。若い頃から積極的に執筆を続けてきた田中克彦が、大学院生時代に書いた論文(1961年)「カザフスタンの文化活動家―チョカン・ワリハーノフのこと―」を収録した貴重な一冊である。
また、日本語とアルタイ諸族との間の言語、文化的同系性、さらには神話的伝承についての論考は、若い研究者によって批判的に継承されたい、という田中の願いを込め、収録している。
モンゴル研究については、モンゴル族の言語・文化・政治状況についてのみならず、ノモンハンについても、あますところなく自身の考えを披露しており、大変読み応えのある一冊となっている。

目次

セレクシヨンⅣへのまえがき

第一部 民族と言語の諸相
アルタイ[諸]語のゆび尺語彙について
カランダーシ ――借用の構造――
文体の国際化
ロシア語と民族語
《読書ノート》『マルクス主義と民族問題』
日本のユーラシア研究の貧困について
民族と国家 ――「ナシオン」と「民族」の隘路をくぐり抜けて――

第二部 モンゴル人民共和国からモンゴル国へ
モンゴル研究者として
モンゴル ――内陸アジアの視点
モンゴルにおける言語生活の近代化とモンゴル語
モンゴル人民共和国の言語生活
《読書ノート》『ロシアの東方進出とネルチンスク条約』
モンゴルの民と国家
《対談》教条と現実のあいだで ――モンゴル文学の可能性――
味覚における民族性と国際性
馬乳酒と骨つぎ
発酵しない馬乳
《講演録》草原のペレストロイカと言語・民族
《読書ノート》『ホテル・ウランバートル』
馬上のことばと書物
《インタビュー》言葉と国を見つめて
馬頭琴のいわれ
《講演録》ロシアの最初のモンゴル研究者 ――P・S・パラス

第三部 ブリヤート、トゥバ、カルムィク
ブリヤートの旅から
アガ草原をめざして
喝さい称賛 ブリヤート
ノモンハン事件から六十年 ――残留捕虜の「その後」を追う――
国家なくして民族は生き残れるか ――ブリヤート=モンゴルの知識人たち――
地上最北の仏教国
ブリヤート民族 ――二一世紀を生き残れるのか?
榎本武揚のブリヤート
トゥバという国
トゥバとカルムィク ――ロシアの二つの共和国
トゥバ共和国の静かな戦い ――二一世紀の民族自決権を考える――
トゥバ共和国 ――ロシアとモンゴルの間で
カルムィク

第四部 チベット、カザフスタン、キルギズ
チベットと日露戦争
真実の歴史 まず理解を ――チベット問題を考える
チベット動乱が明らかにするもの
《講演録》民族と自由 ――モンゴルとチベット――
カザフスタンの文化活動家 ――チョカン・ワリハーノフのこと――
カザフ人の過去と未来 ――民族の歴史構造を解読する――
キルギスへの旅

第五部 ノモンハン戦争をめぐって
《読書ノート》『徳王自伝 ――モンゴル再興の夢と挫折――』
ノモンハン戦争とは何だったのか 奪われた民族統合の夢
《講演録》『ノモンハン戦争 ――モンゴルと満洲国』に書き漏らしたこと
パンモンゴリズムという語の起源と発展

第六部 北方アジアの神話と英雄叙事詩
ブリヤート口承ゲセル物語にあらわれた二つの文化層
「北方系神話」について
モンゴル神話と日本神話
シベリア・日本 結ぶ英雄伝説
生きゆく英雄叙事詩 ――ブリヤート・モンゴルの草原より――

おわりのことばにかえて  英語を公用語にするには

全セレクシヨン収録目録(年代順)

出版社からのコメント

言語学者・田中克彦セレクシヨンの最終巻は、田中本来の研究テーマであった「モンゴル学」についての半世紀にわたる論考を収録しました。
田中27歳の論文「カザフスタンの文化活動家―チョカン・ワリハーノフのこと―」(1961年)から、2018年に出版された「パンモンゴリズムという語の起源と発展」まで、57年間にわたる田中の足跡をたどることができる、貴重な著作集になっています。
民族と言語の問題や、清(中国)とロシア(ソ連)という大国に挟まれ、翻弄され続けてきたモンゴル民族の歴史、モンゴル人の立場から検証したノモンハン戦争など、興味深い論考がぎゅっと詰まった一冊です。

著者紹介

田中 克彦(タナカ・カツヒコ)

1934年兵庫県生まれ。東京外国語大学モンゴル語学科、一橋大学大学院社会学研究科、ボン大学哲学部・中央アジア言語文化研究所(フンボルト財団給費)でモンゴル学・言語学・民族学を学ぶ。一橋大学名誉教授。社会学博士。モンゴル国立大学名誉博士。2009年モンゴル国北極星勲章受賞。著書に『ことばと国家』『ノモンハン戦争―モンゴルと満洲国』『「シベリアに独立を!」諸民族の祖国(パトリ)をとりもどす』(すべて岩波書店)、『差別語からはいる言語学入門』(ちくま学芸文庫)、『従軍慰安婦と靖国神社 一言語学者の随想』(KADOKAWA)、『田中克彦 自伝 あの時代、あの人びと』(平凡社)、『言語学者が語る漢字文明論』(講談社学術文庫)、『田中克彦セレクシヨンⅠカルメンの穴なきくつした』『田中克彦セレクシヨンⅡ国やぶれてもことばあり』『田中克彦セレクシヨンⅢカナリヤは歌をわすれない』(新泉社)など多数。

関連書籍

  • カルメンの穴あきくつしたFTP
  • 国やぶれてもことばありFTP
  • カナリヤは歌をわすれないFTP